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網膜色素変性症

どんな病気

網膜に異常が起こり、暗いところでものが見えにくい夜盲(やもう)や、視野が狭くなる視野狭窄、視力低下が見られる遺伝性の病気です。
日本では数千人に1人の割合で発病しています。
発症の時期や症状、進行は様々で、幼少期に発症して40代頃に視力を失ってしまう重症な例もあれば、発症の年齢が高い場合や、進行が遅い場合では、高齢になってもある程度の視力を維持できている場合もあります。

症 状

網膜色素変性症の症状は、暗いところでものが見えにくくなる(夜盲)、視野が次第に狭くなる(視野狭窄)、視力の低下などが特徴的です。

夜盲

網膜にある視細胞のうちの杆体細胞(かんたいさいぼう)といって、主に暗いところで働く細胞に異変が起こり、徐々に細胞が死んでいくために網膜が萎縮して、光を感じ取ることができなくなり、暗いところでものが見えにくくなります。

視野狭窄

夜盲に続いて、次第に視野が狭くなっていきます。
周囲からぼやけ始め、徐々に見える範囲が中心に向かって狭くなります。
最近では夜間の照明が十分明るいので、夜盲に気づかずに、視野の異変で病気に気づくこともあります。
視野狭窄になると、中心部しか見えないので、足下が見えなくてつまずく、落とし物を捜すのに苦労する、人や車などが横から近寄ってくるのが分からないなど、日常生活に支障が出るだけでなく、危険なことも増えてきます。

羞明:まぶしい

明るいところでまぶしさを感じる人が少なくありません。

視力低下

さらに進むと、視力も低下して極度の視力障害となりますが、症状の現れ方や進行には個人差があり、視力低下から始まる人もいます。
進行性の病気ですが、非常にゆっくりと進行するので、一年ほどの間隔をあけて検査しても、悪化が認められないことはめずらしくありません。
数年から数十年かけてゆっくりと視野が狭くなり、視力が低下し、失明となる場合もあります。

正常な眼球と白内障の眼球
数十年かけて徐々に視野が狭くなっていく

視細胞の
働き

ものを見るためには視力、視野、色覚の3つの機能が必要です。このうち、視力は見ている対象物を見分ける力、視野は一点を見つめたときに同時に見える範囲、色覚は色の判別です。網膜にある視細胞には杆体細胞と錐体細胞(すいたいさいぼう)の2種類の細胞があります。
杆体細胞は網膜全体に広がっていて、広範囲からわずかな光でも感じ取って、暗いところでものを見る働きをします。
錐体細胞は網膜の黄斑(おうはん)部分に集中していて、ものを見分ける高い視力と色覚の機能を担っています。
網膜色素変性症では、初めに杆体細胞が侵されるので、暗いところで見る力と視野に異常が現れます。症状が進行して障害が黄斑部まで進むと、視力も低下してきます。

原 因

網膜色素変性症は遺伝子の異常が原因であることが分かっています。
そして原因となる異常な遺伝子は40種類以上が確認されていますが、分かっている遺伝子パターンがあてはまらないケースも多くあります。

遺伝の形式

遺伝の形式によって病気の現れ方や、進行の経緯などが様々です。
大きくは常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性遺伝の3つの遺伝形式と、どれにも当てはまらない症例があります。
常染色体優性遺伝では、両親のどちらかが患者で、50パーセントの確率で子どもに遺伝します。男女の差はありません。
常染色体劣性遺伝では、両親は保因者ですが発病はしていません。保因者同士から生まれる子どもに、25パーセントの確率で発病します。
両親が近親婚である場合に多い傾向があります。現在のところ、劣性遺伝をする保因者を見分けることはできません。
X染色体劣性遺伝は、女性の保因者の家系で男の子どもに50パーセントの確率で発病し、50パーセントは発病しません。
一方、保因者の女性から生まれた女の子どもは50パーセントが保因者となり、残り50パーセントは正常です。
また、どの遺伝パターンにも当てはまらない、突然発病したようにみえる弧発例もあります。
弧発例の中には、家系を詳しく調べると遺伝が見つかる場合もあります。

検 査

眼底検査網膜の様子を見るために点眼薬で瞳を開いて、眼底を検査します。網膜にばらばらと小さな黒っぽい色素沈着部分が現れます。中期になると黒っぽい色素沈着が進んで骨小体様色素沈着といわれる特徴的な症状が眼底に見られます。また、血管が細くなっていたり、視神経の萎縮が見られたりします。

視野検査見える範囲を調べる検査です。この病気の進行を知る上で欠かせない検査です。ドーナツ状に視野が欠ける輪状暗点(りんじょうあんてん)や部分的な視野の欠損、周囲が見えなくなって中心に向かって視野が狭くなる求心性視野狭窄など、この病気に特徴的な視野の異常を調べます。

暗順応検査夜盲の度合いを調べます。

網膜電図(ERG)網膜に光を当てて視細胞が興奮して起こる電位変化を調べます。初期の頃から電位の低下がみられます。

合併症

早い時期から白内障を合併することが多くみられます。
白内障が見つかれば、手術などによって白内障に対する治療をおこないます。

治療法

残念ながら、現在のところ根本的な治療法は見つかっていません。
ですから、網膜色素変性症の治療は、病気の進行を遅らせることが目的となります。
暗順応改善薬やビタミンA、ビタミンEなどのビタミン剤、網膜循環改善薬、血管拡張薬などの薬が処方されますが、確実な効果は得られていません。
現在、網膜再生治療や人工網膜などの研究、遺伝子治療など様々な研究がおこなわれています。

失明について

この病気は最終的に失明に至る病気と思われがちですが、必ず失明するわけではありません。
病気はゆっくりと数十年という長い年月をかけて徐々に進みますが、その進行速度には大きな差があるうえ、症状の現れ方、発症した年齢などによっても個人差が大きく、高齢になっても視力を維持している場合が少なくありません。
幼少期に発症した場合には、罹病期間(病気にかかっている期間)が長くなるので、数十年して失明する場合もありますが、若年発症だから視力を失うとは限らず、患者さんの多くは発症後40年くらい経過してもある程度の視力を保っています。

日常生活
での注意点

症状に応じて網膜の機能を最大限に活かす生活の工夫が重要です。現在のところ、光と病気の進行の関係ははっきりと解明されていませんが、視細胞を保護するため、強い光を避けてまぶしさを軽減させるための遮光眼鏡の着用が勧められます。
また、屋外での作業や部活動などのスポーツを避け、室内でできる職業を選択するなど主治医とよく相談して判断するとよいでしょう。
このほか、必要に応じて弱視眼鏡の着用や、文字などを見やすくするためのルーペや拡大読書器、拡大文字のタイプライターの活用など、それぞれの症状に合わせた補助具を利用することもできます。
また、ロービジョンケアといって、低視力の人が残った視力を利用してできるだけ快適に過ごすことができるような援助や指導も整備されてきました。

医療助成制度

網膜色素変性症は特定疾患研究の対象疾患に指定されているので、厚生労働省の医療助成制度が受けられます。
手続きは居住地の保健所を通じておこないます。
必要な書類や手続きの方法、受けられる医療機関などは都道府県によって異なるので、管轄の保健所に問い合わせてみるとよいでしょう。
また、視野や視力の障害が進んだ場合には、障害の度合いによって身体障害者の認定を受け公的なサービスや援助を受けることもできます。

監修日本眼科学会専門医試験問題作成委員 梶田眼科院長 梶田雅義 先生

提供株式会社保健同人社

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